塵芥溜のブログ

日頃の備忘録

p1,中園ほか2021「3Dを終始多用した発掘調査―鹿児島県三島村黒島の調査から―」

中園聡・平川ひろみ・太郎良真紀 2021「3Dを終始多用した発掘調査―鹿児島県三島村黒島の調査から―」『日本情報考古学会講演論文集』Vol.24 p30-35 日本情報考古学会

 

「悉皆的3D発掘」の実践例として、国内で先駆けて発掘調査で写真測量を徹底して行い、その有効性を示している。

従来の実測図やトータルステーションを用いた位置情報記録で不十分だった掘った状態を子細に復元できるような記録方法として、近年注目されている写真測量ですが、中園氏らが実施した終始写真測量で記録を残し、手作業の実測をしないことを実践した例は国内では初例だと思われる。

 

発掘現場で、人力掘削の傍らで手測りの実測作業は人員も時間もかかり、多くの平面、断面図などの実測図の縮尺が基本1/1で実測することは稀である。実測図が終われば標高を図面に記録していく作業も時にはある。手作業の実測図を作成する過程でヒューマンエラーや客観性が担保されなかったりと問題が生じる上に、追及すべき発掘状態の再現度を上げてることは調査期間、人員、予算のバランスで、多くの調査機関で記録保存の取捨選択がなされてきている。

大規模現場においては、完掘時の平面図化を写真測量、遺物出土状況はオルソ画像作成して実測図を作成するところは多いだろう。徐々に写真測量を活用が進んでるように感じる。

 

中園氏らが実施した発掘調査成果は報告書になって、詳細なデータが公開されている(中園編2021『三島村黒島大里遺跡 2』)。写真測量で得られた3Dデータを必要に応じ図化、位置の記録、個々の子細な写真記録も復元できるようである。

”現場の情報は調査時にしか得られないという考古学の宿命を覆す(=真の記録保存に近づく)のが3D記録である”(p32)

複数年度にわたり継続し発掘調査しているところで、当初は手作業の実測と併用で、写真測量を行い、調査記録に写真測量が有効な手段であることを確認し、時間、人員は少なく済み効率的に精度の高い記録が取れることが明らかにされた。詳細については報告書と合わせて読むと、写真測量は有効な記録手段であることは頷けるし、希求してやまない完壁にほど近い記録保存だと思われる。

ただ、デメリットになる写真測量用の機材や専用ソフト、3Dデータの解折環境の準備には、一体どれだけの費用がかかるのかが分からない。まだ、各地の埋蔵文化財行政職員にはやや敷居が高いままのような気がする。しかしながら、コロナ禍でオンラインで講習もあったりして、写真測量の普及に尽力されている研究者の方が一定数いらっしゃるので、今後目が離せない分野であることは間違いない。